64人が本棚に入れています
本棚に追加
三年前の真冬の昼。
中学生だった直人は廊下を歩いていた時に黒い蝶を見た。
真っ黒の蝶はひらひらとどこからともなく現れて目の前を飛んで何処かへ消えてしまった。
季節外れ甚だしいそれに唖然としながら漠然とした予感を感じた。
すとんと冷たい予感。
それと同時にゆう姉が昔教えてくれた話がフラッシュバックのように蘇った。
『人が死ぬとね、黒い蝶が教えてくれるんだって。それを黒死蝶って言うんだよ』
まさか、と思った。
それは迷信だと思っていた。
神話やオカルトが好きなゆう姉は昔からそういう話をたくさんしてくれたからその一つだと。
それに黒い蝶など事典で調べればいくらでもいる。
けれど、その日のうちに送ったメールは今尚返ってはきていない。
両親にはそれとなく訴えた。
「ゆう姉にメールを送ったけど返ってこない。何かあったっけ?」
そう話すと両親はピシリと動きを止めた。
触れられたくなかったようだが、もともと一人っ子同士だった直人とゆう姉は姉弟のように仲が良かった。
それでも父は一言だけで終わらせた。
「忘れなさい」
生死の問題すら問わせてはもらえなかった。
最初のコメントを投稿しよう!