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凄惨なものが広がる傍に淡い緑の傘が見えた。
それは直人が三日前に女を見る原因となった女子生徒と同じものだった。
遅刻してきて偶然にも立ち会ってしまったのだろうか。
そう思うと傘がすうっと傾いて身体が見えた。
あの時と同じ灰色のコートを着ている。雨に濡れたらとんでもない重さになりそうだ。
次に黒髪が見え
「見ない方がいいわ」
気付いた時には席に座らされていた。
クラスメイトのほとんどが窓際に集って騒然としている。
その中でミキは腕を組んでいた。
「今……」
「アレは見てはいけないものよ」
ぴしゃりと強い口調で切り捨てられ肩を震わせた。
ミキには昔からアチラのものが見えていたという。
直人自身はそういったものと縁がなかったのでミキのそれに何か言えるわけではない。それでも幼なじみということもあり信用している。
それが【見てはいけないもの】と言った。
確かによく考えたら今は六月。
冬用のウールコートなんて着てはいられない。
つまり、あの緑の傘の生徒は【生きていない者】。
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