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目を向けたのはゆう姉の方だった。
「どの世界でも罪は罪とされてる。人殺しは」
唇から零れた曖昧な声色。
片割れのゆう姉だ。
「私は受け入れて殺した。救われたいなんて思っていない。私が願ったのは“終わり”」
茶の瞳に直人は見覚えがあった。
昔、悪戯をしてものを壊してしまった。
なんとかして怒られないように言い訳をしたら全くの正論で持って打ちのめされた。
その時の偽りを嫌った真っ直ぐな瞳だ。
「けれど」
その瞳が陰る。
「私たちのした行いに対して彼らはのたまった『俺が何をした』と」
眉根を寄せて苦悶に歪ませる。
「彼らは自らの無知な言葉の刃で人一人を壊した。それに一切の自覚はなかった。無知であれば、知らなければ人を殺しても罪に問われないのか?幼ければ悪ふざけと罰を与えられないのか?物質的な行為でなければ全て許されるのか?」
表情と不釣り合いなほど淡々と文章を読み上げるようにゆう姉は言葉を落とす。
その瞳は鈍く煌めいていた。
刃のような煌めきで。
「そうして、何人の良心的な人間が殺されてきたか。無知で愚かな人間に」
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