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沈黙が降りる。
それは怒りなのか嘆きなのか。直人には判別はつかない。
直人はそっと拳を握り締めた。
そして、視線を向けた。
長谷優璃に。
「殺していいわけないだろ」
開ききった瞳孔は鏡のように直人の姿を映す。
感情は見えない。
「どれほど悪くても殺していい理由にならない。それはゆう姉、あんたが言った言葉だ!」
「直人、止めろ」
ゆう姉が制止をかけるが聞こえないふりをする。
聞こえぬ耳に。見ない瞳に。忘れた過去に。閉ざした心に。
届くようにと声を張る。
「綺麗事だと分かってる。でも、その綺麗事が好きだったのがゆう姉だ。それに今ゆう姉がしてるのは違うだろ?」
「止めろ!私ではもう止められない!!」
否定していると分かっていた。
味方になると言ったけれど……
正しいことを正しいと
間違いを間違いと
そう言える昔のゆう姉が、とても格好良かったんだ……。
「みんなこの世の中へのあんた自身の復讐でしかない!!」
「いらない」
突風が吹いて体が浮き上がった。
視界には遠い地面。
救えない。とミキは言った。
この時、ようやく意味が分かった気がした。
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