◇いつもの朝◇

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「まぁ。そうなんじゃない? エリーナは魔女のこと信じてないの?」 「うん。あんまりね。それに、救世主の話だって単なる預言じゃない? だから私はみんなみたいには信じてないの! もし本当なら早く私たちを助けてほしいわよ…。」 「そんなに考えるなって。俺だってそんなに信じてないし。 お前に考え事は似合わないんだよ!」 「はぁ~まったく、ジャックってほんとに嫌味ったらしいのねっ。 あっ! もう家まで来ちゃったのね。 バケツ持ってくれてどうもありがと。 じゃあね!」 エリーナは少年と別れ 近づく家まで走って帰った。 紹介が遅れたが、さっきの少年はジャックといい、エリーナとは幼なじみである。 黒髪に灰色の瞳をしていて、背は高い。 いつも黒いローブを身につけている。 エリーナの家のすぐ近くに住む、マスキーさん家のひとり息子だ。 エリーナとはよくけんかもする。 ジャックは、頬を膨らましながら去っていったエリーナを見て小さく微笑んだのだった。 …エリーナの家… ガチャッ 「ただいま。水汲んできたよ!」 「あら、おかえりなさい。 外は寒かったでしょう? これでも飲んで温まってなさい。」 ポムおばさんは、冷えきった彼女に、ホットミルクを渡した。 ポムおばさんは、エリーナの幼い頃から、まるで我が子のように大事に育ててきた。 エリーナもそんな彼女の事を、“お母さん”と呼んでいた。 「ありがとう。お母さん! そう言えば、お父さんの調子はどう?」 「そうね…。 まだよくなりそうにないわね……まだ高熱が下がらなくて。 困ったものね、こんな山にはお医者様も来てはくださらないだろうし…。」 「お医者様? 私、町に行ってさがしてくるわ!」 「エリーナ…。」 ポムおばさんは、静かに首を横に振った。 「エリーナ、お医者様を呼ぶにはお金が必要なの。 この家にはそんな大金があって? 気持ちはわかるけど…そう簡単には解決できないのよ…。」 「そんな…。」 エリーナは、うつむいたままその場をあとにし、自分の部屋に籠ってしまった。 彼女の部屋は、今にも壊れそうなはしごを登っていった屋根裏にあり、中は堅いベッドと、小さな机と椅子があるだけの殺風景であったが、エリーナにとっては世界で一番落ち着く場所であった。 エリーナはベッドに横になりながら病気におかされた父のことをただひたすら考えていた。
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