序章

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序章

いまの社会は、表と裏を薄い氷が隔てている程度に、とても危ういバランスの上に成り立っている。 そう父に教えられたのは中学に入る少し前の4月4日、私の13歳の誕生日だった。 この世界には何の能力も持たない極めて普通な人間と、異質な能力を有する純血の異種族、人間と異種族の混血という三種類が、管理・統制のもと共生しているのだそうだ。 また管理・統制を行なっているのは、4世紀頃から長い年月をかけ世界中に根回しを行い続けている、居をヴァチカンに構える世界一巨大な宗教団体。 まぁみなさんよくご存知のあの団体だ。 私もこの話を聞いた時は半信半疑で…ぃゃ、正直なところそんな三流オカルト雑誌が喜びそうな馬鹿な話があるかと思ったくらいだった。 事実は小説よりも、とは良くいったものだと思う。 そして父と母の本当の職業を聞かされたのもこの時だった。 管理のための『教会』と統制のための『協会』読みが同じなので、『協会』の方は俗称として『ギルド』と呼ばれている。 父と母は『ギルド』に属しており、表向きには退魔士として、裏では『ギルド』の依頼を請ける『ハンター』として働いているのだとか。 私にこの話をした後で、父は此方の世界に興味があるなら、自身の後継者として本格的に全てを教え込むつもりだと言った。 幼少の頃から刀術と体術の基礎を叩き込まれているのに、何を今更と私は不思議に思った。 しかし、13になったばかりの小娘に此方の世界がどういうものかというのを想像しろというのも、どだい無理な話だったとは思う。 当時の私は自分が特別な存在であると思っていた、自分の力に過信もあった。 まぁ、ようは若過ぎたのだ。 1年と数ヶ月後にとんでもない事件に巻き込まれると解っていたら、少しは躊躇したかもしれなかったかな。 でも、私の人生はこのルートしか無かったとも思える。 どのみち家業は継ぐ気でいたし、なにより自分の可能性というものを確かめたかったから。 そして私は答えた…。
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