66人が本棚に入れています
本棚に追加
「汚れてる……」
腰を下ろし、彼と視線の高さを同じにしてから味気なく言った。
「な、何がですか?」
その際立った容姿を前にしてるせいか、はたまた顔が近いせいか、身がすくまる。
口回りに嘔吐物がまだついていたのだ。
ーーうわ!恥ずかしー!
彼女はそれを指摘したのであろうことに、テンパる少年は気付いた。
パジャマの裾で口回りを拭こうと左手を動かした時。
「な、なんですか」
その腕はガシリと掴まれた。
その腕の体温は服を隔てていても、伝わった。
冷たい。
肉感はあるにしろ、生気をなくしたように体温が分からない。
ホントに人形なのかもしれない、いや、そもそも人間なのかも怪しい、と言う猜疑心を燦に植え付けるには、これだけで充分だった。
そもそもこんな静寂に満ちた、何もない不気味な場所に現れたのだから。
だが更に目の前の事実に、幼さが残る彼の心を混乱させた。
最初のコメントを投稿しよう!