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楓は左手に意識を集中させ、涼子の右腕の傷にゆっくり触れた。徐々に魔法のように傷は塞がる。
(傷は……塞がるけど私の力じゃ痕まではーー)
「代わって?」
「え……?」
現れたのは入学式で涼子の隣に居た長髪黒髪の大和撫子。楓は椿専門高等学校の制服で、2学年の赤の学年色リボンをしているのを見て、涼子の関係者だと気付いた。
「涼ちゃん、しっかりなさい」
「……」
「意識ないけど脈も呼吸も正常ね。全く無茶する日が来るとはいえ予想よりは早かったわ」
黒髪長髪の少女は腕時計を見ながら意識をなくした涼子の脈を測り、顔を近付けて呼吸確認を手早く行った。
「貴女は……」
「私は春ノ宮奈々(ハルノミヤ ナナ)」
奈々は自分の名を名乗った後、首に下げたネックレスを強く握り締めた瞬間、桜の絵柄が美しい赤茶の服に身を包んでいた。
「クリス・ヴィエルジェ……」
「……」
奈々は意識を高め、涼子の傷に触れる。楓が塞いだ傷の痕が完全に消え去った。
「ふぅ……。楓ちゃん、だっけ? 涼ちゃんの事、頼んだわよ」
「は……はい!」
奈々は制服姿へ戻ると、公園から立ち去ろうとするが、何か思い出したように足を止めた。
「私の正体はまだ涼ちゃんには内緒ね? 意外と混乱しやすいから。冷静な顔する割に」
「春ノ宮先輩、ありがとうございました」
「どう致しまして」
綺麗な笑みを見せ、奈々はその場から去った。楓は奈々を見送ると倒れた状態の涼子の脇を抱え、ベンチへ横に寝かせた。
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