第一章 ―出逢い―

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―屋敷へ着いた時には 陸の顔色は青白く 唇の色をなくしていた。 縁側から 屋敷の中に入ると 夕霧は 自分の部屋へ向かった。 部屋へ入り 布団を敷き 背負った陸を下ろした。 「少し 待っておれ。着替えと 湯を持ってくる。」 ガチガチと震えている 陸の身体に 獣の毛皮で出来た 上着をかけ 夕霧は 部屋を出て行った。 ―しばらくすると 部屋の障子の前に 人が立った。 静かに 障子を開け 中に入ってきた 人の気配に 陸は 身を固くした。 その者から 漂う匂いから 夕霧でないことが分かる。 「お前 何者だ?」 その声と 甘いような体臭で 女だと分かった。 陸は ただ 身を縮め 口を閉ざしていた。 「何故 この部屋に居る?」 女は 尋ねるが 陸は どう応えていいのか 分からなかった。 ここが どこで いったい どのような所なのかも 陸には 分からないのだ。 黙っている陸に 女は 少し 苛立った口調で言った。 「何とか 言わぬか!」 怒鳴られ 陸は ビクッと 身体を震わせた。 その時 障子が開き 夕霧が部屋に戻ってきた。
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