第一章 ―出逢い―

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「何をしている?美雪。」 低い声で言う夕霧に 美雪と呼ばれた女は 苦笑する。 「夕霧 誰だよ こいつは?」 美雪の問いに 応えもせず 夕霧は 持ってきた着替えと 桶に入れた湯を畳の上に置いた。 震えている 陸の側へ行くと 上着を脱がせ 濡れた着物を脱がし出した。 「用が無いなら 出て行け。」 冷めた声で言う夕霧を 下唇をキュッと噛み 見つめると 美雪は 静かに 部屋を出て行った。 手拭いを湯にしめらせ 固くしぼると 夕霧は 陸の身体を綺麗に 拭いてやる。 「心配しなくても 良い。ここは 甲賀屋敷の中にある 俺の部屋だ。…そう言えば 名を名乗って おらなかったな。俺は 夕霧と言う。お前は?」 先程とは違った 優しい 夕霧の声に 陸は 安心したのか ホッと 息をついた。 「り…陸。」 「陸か…。今日は もう 日が暮れてしまった。明日には お前の家に 送って行こう。」 「…はい。」 小さく返事をした陸は 少し 不安になった。 今頃 咲と海が 心配しているだろう。 だが この大雨の中 山の麓まで戻るのは 無理である。 俯き フゥーッと 息をついた陸に 乾いた着物を着せながら 夕霧は 瞳を伏せた。
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