第一章 ―出逢い―

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「陸は…生まれた時から 身体が弱く 一度 熱を出したら なかなか 良くならないんだ。…もう 何度も 死にかけて…。」 そこまで言うと 海は 声を詰まらせ 俯いた。 夕霧は 膝の上に置いた手を グッと 握り締める。 「…すまぬ。」 ただ一言 謝ることしか出来ず 夕霧は 立ち上がると 部屋を出た。 その姿を 廊下で見つめる月影。 「夕霧…。」 顔を曇らせ 見つめる月影に 夕霧は 軽く微笑むと 黙ったまま 横を通り過ぎていった。 月影は 障子の陰から 部屋の中を覗くと 静かに言う。 「夕霧は 一日も休まず ずっと その者の側に ついていた。…それに免じて 許してやってくれ。」 海は 黙ったまま 月影の言葉を聞いていた。 月影は それ以上 何も言わず そこを離れた。 陸の額に浮かんだ 汗の粒を 手拭いで拭きながら 海は呟いた。 「蘭の父さんが…死んだよ。一人になった蘭は 今 俺達の家にいる。お前がいなくなって…母さんは ずっと 床に伏せている。」 熱い息を吐く 陸の手を握り締めると 海は 涙を一筋 流した。 「死ぬな!陸…!」 叫び 肩を震わせ 海は 上体を前に倒し 伏せた。
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