第一章 ―出逢い―

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―それから 二日が過ぎ 陸は 静かに この世を去った。 あれほど 苦しんだのが 嘘のように 死に顔は 穏やかだった。 陸の亡骸は 山の頂きに埋められた。 陸の墓の前 茫然と立ち尽くす 海の姿に 夕霧は 胸を痛めた。 「…やっと 楽になれたな。もう…苦しいことはない。」 呟き 海は 夕霧の方を振り向くと 薄く笑みを浮かべた。 「お世話に なりました。有り難うございます。」 礼を言う海を 夕霧は まともに見ることが出来ず 思わず 顔を背けた。 「何か いろいろと 失礼なことを言って すみません。気が動転していて…。でも…これで 良かったんです。陸も 幸せだと 思います。」 「えっ…?」 夕霧は 眉を寄せると 海を見つめた。 海は クスッと笑う。 「だって…そうでしょう?長く生きたって あの身体で 働くことも出来ず…働くどころか 自分のことだって 思うように 出来ない。…俺も 少しは 自由になれる。」 そう言った 海の顔が歪み 唇が震え出す。 「…そうでも 思わないと…俺…生きていく 自信が無い。」 「……。」 夕霧は 何も言えなかった。 それだけ 海の悲しみは 深かった。 海は 顔を上げると にっこりと 微笑んだ。
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