第二章 ―抜忍―

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―屋敷から 少し離れた所に 美しく澄んだ山水が流れる 川があった。 そこで 鷹丸は 水桶に 水を汲んでいた。 両手で水を汲み 顔を洗った鷹丸は 微かな 人の呻き声に 眉を寄せ 辺りを見回した。 大きな岩の陰から 今にも 消え入りそうな 声が聞こえる。 鷹丸は 桶を川岸に置くと その岩の方へ 近付いた。 そっと 岩の向こう側を覗こうとした鷹丸は サッと 喉元に 刀を突き付けられ 息を飲んだ。 震える瞳で見ると そこには 一人の若い男が 身体の至る所から 血を流し 仰向けに倒れ 鷹丸に 刀を突き付け 鋭い瞳で 睨んでいた。 「お…お前は!?」 鷹丸は ゴクリと 唾を飲み込んだ。 男は 何一つ 身につけておらず 血と泥に汚れた身体は ダラリとしている。 ただ 刀を構えた右手だけが 真っ直ぐに伸びている。 ワナワナと 唇を震わせている男の顔は 青白く それを血が赤く染めていた。 荒い息を吐く男を見つめ 鷹丸は フッと 口元に 笑みを浮かべた。 「安心せい。俺は お前の敵ではない。」 鷹丸が そう言ったが 男は キッと睨んだまま 刀を構えている。 「刀を…納めてくれぬか?」 じっと見つめる 鷹丸の瞳から 殺気を感じないのに ホッと 息をつくと 刀をガチャリと 手から離した。 鷹丸は フッと 息をつくと 男の横に跪き 傷の具合を見ようと 男の身体に 触れようとした。 それを察し 男は ビクリと 身体を震わせる。 「や…やめ…ろ。」 ガタガタと 身体を震わせる男に 鷹丸は 眉を寄せる。 只ならぬ 男の脅えように 鷹丸は 男に触れず 傷を見た。 どこの傷も ひどかったが 特に 下半身の傷が ひどく 幾筋も大腿部を流れる 赤い血に 鷹丸は ハッとなる。 『ま…まさか!?』 男は 多分 犯されたのだ。 それも 何度も 責められたに 違いない。 普通の人間なら きっと 正気では いられない程に…。 鷹丸は 震える男の 血がこびりついた髪を優しく撫でた。 「…傷の手当てをしないとな。」 優しい鷹丸の言葉と 手の感触に 男は 嗚咽する。 鷹丸は 男を静かに抱きかかえると 屋敷へと向かった。
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