第二章 ―抜忍―

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「ここは 甲賀だ。甲賀屋敷にある 俺の部屋だ。」 「甲賀…。うっ…!」 男は呻くと 身を縮めた。 鷹丸は 男の身体を支えると 布団の上に横たえた。 「無茶をするな。傷が ひどいのだから…。いくら お前が忍びでも 危ないところだったのだぞ。」 優しく呟く 鷹丸を潤んだ瞳で 男は見つめる。 鷹丸は 微笑むと 男に言った。 「俺は 鷹丸。ここには 俺の他に 四人の仲間と 頭領がいる。頭領には だいたいのことは 話してある。詳しいことは 後に お前から 話すと良い。」 話を聞きながら 男は 唇を震わせる。 鷹丸は 立ち上がると 男を見下ろす。 「腹が減っただろう?何か 食い物を持ってこよう。」 そこまで言うと 鷹丸は 部屋を出て行こうとした。 その背中に 男は 小さく言った。 「…有り難う。」 「うむ…。」 振り向きもせず 鷹丸は 軽く手を振ると 出て行った。 障子が静かに閉まり 男は 布団の中で 天井を見つめていた。 その瞳は ユラユラと 揺れていた。
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