第二章 ―抜忍―

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頭領の佐助の部屋に 甲賀の忍び達は 集まっていた。 甲賀忍びに囲まれるように 男は 上座に座った佐助に向き合い 座っていた。 忍びとは言え 一週間も経たぬうちに ほとんどの傷を治してしまった男。 右側の目尻から顎にかけて 切り傷の残った顔は 端正で 身体も 忍びとは思えぬほど 細身だった。 だが その全身からは 一瞬の隙も見せない 威力を感じる。 「私は 伊賀の冬夜と 申す者です。鷹丸殿から 話しは聞かれたと思いますが 私は 伊賀を抜けて参りました。その事情は…伊賀の頭領である 十造の やり方が 私には 理解出来ないのでございます。…いえ 頭領だけではなく 伊賀の忍び 全員…狂っております!」 冬夜の言葉に 佐助は 腕を組み 眉を寄せた。 「狂っておると?」 佐助が尋ね 冬夜は頷いた。 甲賀の忍び達は 顔を見合わせる。 冬夜は 少し 身を乗り出した。 「忍びと言っても 恥ずかしながら…皆 伊賀のならず者ばかり。技や忍法は使えても 元は 荒くれ者。やることは 下の下。里へ出ては 民家や作物を荒らし 挙げ句の果てには 男であろうが 女であろうが 強姦する有り様。私は 何度も 頭領に抗議をしたのですが 聞き入れては もらえませんでした。」 「何と…浅ましいこと…。」 佐助は 呆れたように 息をついた。 冬夜は 瞳を震わせると 話を続けた。 「里を守る我々が 里を荒らすとは…私には 理解出来ませぬ。私は 頭領の息子として 暮らして参りましたが 実は…頭領が若い頃 里にいた商人の娘を無理矢理 手込めにして 出来た子供であります。母は それを苦に 私が生まれて すぐに 自ら 命を絶ちました。」 瞳を閉じ 佐助は 冬夜の話を聞いていた。 月影は 沈痛な面持ちで 冬夜を見つめている。 冬夜は 唇を震わせると 上体を倒し 両手を畳の上につく。 その肩が 小刻みに震えている。
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