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「え?何だって?」
彼は歩きながら、そう口を開いた。
しかし、その場には彼しかいない。
しかしながら、別に彼にしか見えない何かがいるわけでも、遠くに自分の声を届ける術を使ってるわけでもなく、でも普通に独り言というわけでもなかった。
『だから、今何処にいるんだっつーの。ったく、さっさと居なくなりやがって……』
この声の出所は彼の右耳、そこにある掌大の物。
詰まるところ、ケータイからだ。
「大体、学校と俺ん家の中間あたり。って言えば分かるか?」
『あー、大体分かった。ってか、もうそこにいるって事は終わって速攻で学校出てったな……』
帰宅への歩を進めながら、少し気だるそうな顔で連絡を取り続ける。
中途半端な長さの黒髪が、これまた寝癖のように無造作に数束はねているのが、またさらに彼の無気力感に拍車をかけてるように見える。
「俺がすぐに帰ろーとどーだろーと、別に困らんだろ」
『今日はそれで困ったから連絡したんだろーが。朝のホームルーム後の話覚えてねーか?』
「わり、そん時多分寝てた」
大して詫びてない声色で、彼はそう言った。
その言葉に反応したようにケータイ越しに溜め息が聞こえてきたが反応せず、やはり気だるそうに聞き返す。
「で、なんて言ったんだ、その時」
『……明日から夏休みってことで、今日クラスでお疲れ様会的なことやるって言ったんだよ。因みに参加不参加は自由だがお前は強制参加だ。拒否権は無し』
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