第一章

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接客を終えたあと店長に訳を話すと「そうとは知らず申し訳ない」と頭を下げた。 彼は全く悪くない。 私がそう選んだんだ。 連休をもらい謝り続ける店長に見送られながら家へ急いだ。 クローゼットに押し込まれた大きめの鞄に適当に服を詰めていると携帯が鳴った。 着信はお姉ちゃんからで彼女は泣いていた。 それで母さんがもう生きていないと知ったんだ。 「…っ…母さんアンタの事待ってたんやで?!なんで…すぐ来んかったん!?何が仕事や…」 「…父さんは?」 「…泣いてるわ…とにかく早よ来て…」 私が濱口さんに甘い言葉を吐いている時に母さんは私を呼んでいた。 私が濱口さんと抱き合っている時に母さんは死んだ。 急に吐き気が起こって洗面台に急ぎ胃の中のものを吐き出した。 空っぽにしても胸は痛苦しくて震える体を支えながら家を出た。
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