第一章

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新幹線に飛び乗り到着時間をお姉ちゃんにメールで伝えると駅で彼女は先に待っていた。 「久しぶり。乗って」 促され助手席に乗り込む。 「仕事大丈夫なん?」 「うん連休もらったから」 「そっか」 暫くの沈黙の後、お姉ちゃんはCDの音を下げた。 「母さん買い物の帰りに車にひかれてな…お医者さんも頑張ってくれはったんやけど…あかんかったわ…」 「…そぅ」 高校を卒業して専門で向こうに行って5年。 正月でさえ帰ってなかった。 'あんたの好きなもん作って待ってるからいつでも帰っておいでや' 母さんは時々電話をかけてきては決まって最後にそう言ってたっけ。 まさかこんな形で帰る事になるなんて思いもしなかった。 「…電話ごめんな。私も取り乱しちゃって…」 「うぅん」 それから会話は途切れお姉ちゃんが小さくした音楽だけが車内に流れ私は窓に顔を向けた。 お姉ちゃんは昔からそうだ… 喧嘩をしてもいつも先に折れてくれる。 私が悪くても。 今は小学校の先生をしていて来年には結婚が決まっている彼女の薬指には婚約指輪が光る。 真っ当な人生。 親が誇れる人生。 絵に書いた幸せとはこういう事だろうか。 私がどう足掻いても彼女の様にはなれない。
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