明るく曇る

8/11
前へ
/11ページ
次へ
君は、他人に触れた事があるかい?」 喋った。黒い夜に、 黒い闇になった男が、 喋った。(思ってたよりも若い声で) 男「君は人に触れた事が無いだろう。 物理的にも、精神的にも。 自分から触れないばかりか、差し伸べられた、救いのその手さえも拒むのだろう。 他人から距離を置いて、君にしか見えない壁で囲い、誰からも理解されない殻に篭るのだろう? そのくせ、人一倍に触れ合いを求めていて、だけどそれが恐ろしくて、他の奴等、例えば、同じクラスの生徒達だとかを妬んでいるのだろう? こんなにも辛くて厳しい世界が、堪らなく嫌で、だけど自分で自分を殺す事すらできなくて、情けなくて、みっともないんだろう? 誰かに触れてしまったら、それだけで、触れた事も無いのに、たったのそれだけで壊れてしまいそうで怖いんだろう?他人が、そして、自分が。 何故君はそんな人間になってしまったか分かるかい?他の人と何処が違うのか、君は分かっているのかい? それは、とても簡単な事なんだ。 それは、それはね、君が気付いてしまったからなんだ。 自分には何も無いと。 ほとんどの人は君と同じように、何も無い人間なんだ。 だけどそれに気付かずにいたり、気付いても、そんな事は無いと、自分自身に嘘を吐いて過ごしているんだ。 君はそれが出来なかっただけなんだよ。 たったのそれっぽっちなんだ。 君は、自分には何も無いと知ってしまったから、只々生きているだけだから、只々息をしているだけだから、只々繰り返しているだけだから、只々怯えているだけだから、只々足掻き、苦しみ、堪え難い絶望から抜け出したいと、望んでいるだけだから、君は、君は、
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加