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なにか必要があれば宿泊していた、馴染みのホテル。
いつもはマネージャーか誰かに代理でとってもらっていて、こうして個人で泊まるのは初めてだ。
「なんか変な感じだな。緋くんと俺と、二人きりって」
でも今はそんな事より、部屋のなかベッドの傍で笑ってる碧君のほうが気になって。
「そ…そうかな?そんな事ないんじゃない?たまに二人で飲みに行ったりするじゃない、俺達」
碧君の言葉に対する応えになってるようでなっていない会話をしながら。
思わず緊張で生唾を飲み込んだ。
「じゃ、寝るか」
もう、飯も風呂も、夜にする用事は全て終えていて。
俺も碧君もあとは寝るばかり、て格好をしてる。
「そっ、ケホッ、そうだね、もう12時過ぎてるしね」
寝る、なんて言葉に動揺して咽せそうになりながら、ベッドのほうを見た。
シングルサイズのベッドが二つ。
まあ、もちろん、そりゃそうだ。
いきなり一つのベッドで一緒に寝ましょうなんて、いくらなんでも積極的過ぎる。
がっつくにもほどがある。
「碧君、そのベッドで寝る?じゃ、俺手前のほうで寝るよ」
とりあえずは、今夜の目的であった、想い出になるようなキスをしようとこうして共に居ることにした訳だけれども。
一緒に飯食って、ここへ来るまでの道をドライブと称して碧君と楽しんで。部屋へ着いてからはお酒も飲んだ。
なんか、もうこれで充分だな、て。
結構満足しちゃってて。別にこれ以上は、今夜は無くていいや。
「一緒に寝ねえの?」
「…っ?!、ゴォホ!」
「…さっきからなに咽せてんの?大丈夫?」
「だって、だって、ケホッ」
いっ、いいの?
いいの?ホントに?マジで?
「そのつもりで来たんじゃねえの?違うの?」
少し困ったような目を向けて。こちらを窺う。
「そのつもり、ていうのは、碧君、あの…その…」
あのつもり?
「…なんのつもりかは知んねえけど、とにかくどうすんだよ」
「寝ます」
即答。
「じゃ…、はい」
早く来いよ、て。
碧君は今まで見たことの無いような、不思議な瞳で俺を見た。
…俺。キスだけでも出来ればいいな、て。
ちょっとした下心で今日は誘ったんだ。
「……なんか、緊張する。緋くん」
まさか、こんな事になるとは。
照れたように笑う碧君のベッドへと、滑り込んだ。
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