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全身が心臓になったのか、てほど鼓動が激しく身体を揺らして。
指の先が触れたり触れなかったり、すぐ横にある碧君の服が俺の手の甲を触れる。
まさに硬直。
ちょっとでも動くと、その奥にある彼の体に刺激を与えてしまう。
一緒に寝る事は許されたものの、その先を約束したわけじゃないから。
今は、とりあえず。
早く眠りにつきたい、と。お経唱えるみたいに頭のなかで繰り返してる。
「……な、緋くん」
碧君の微かな声が、一緒に被ったシーツのなかくぐもって聞こえた。
「なに?」
ドッキドキしてたけど。
声は平静を保てていた。…と思う。
「なんで今夜一緒に居よう、て言ったの」
あまり唇を動かさないせいか、子供みたいに聞こえる話し方。
「なあ、なんで?」
彼特有の、柔らかな甘い声が耳のすぐ傍から。
…もうね。
ホント、やめて碧君。
俺、ドキドキして心臓もたねぇし。
「いや…その、…ねえ?」
あわよくば貴方とキスしたかったんです。
前みたいに、不意打ちみたいなそんなんじゃなくて。
ちゃんと、心を込めたキスをしたいな、て。
「別に意味はないんだけどね、…ホントに」
でも、俺が想い描いてたのはロマンチックな風景のなか、二人寄り添って自然に唇を寄せる、とか、見つめ合いながら気持ちが抑えられなくなってキスを交わすだとか。
そんなのを考えていたから。
ホテルでこんな風に寝ながら、てのは理想じゃないし。
今夜は、一緒に眠れたっていう一歩前進した感じで。俺はもうそれで納得なんだ。
「意味無いの?ほんとに?」
だから、そんな事を考えていたから。
碧君の微かな寂しさの混じった声に驚いた。
「俺…、」
「うん?」
「結構、覚悟して来たんだぜ」
ずっと、敢えて見ないようにしていた隣をゆっくりと見た。
「緋くんは、…違えの?」
いつも涼しげな瞳が、まるで濡れてるように俺を見つめていた。
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