初めて物語

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しばらく落ち着いていた心臓が、突然の肌への感触に波打つように跳ねた。 ドクン、と痛いくらいに胸を叩く。 …だって、それって。 碧君、誘ってるってことだよね? 「緋くんは、いやなのか?」 「いや、いや」 いやじゃないし。 ていうか、そんな問題じゃないし。 「あの、でも、俺…ロマンチストて馬鹿にされるかも知れないけど、たとえば綺麗な夜景見ながらとか、それこそ貴方の好きな海でしたり、とか、そういうのが理想であって」 別に、ここでも勿論いいんだけど。 場所の問題ではないにしても。一応願望はあってね。 「や、夜景見ながら…?海…?」 「え、うん。…おかしい?」 なにか、キワモノを見るような。若干怯えの混じった目で俺を見てくる。 …そんなおかしいこと言った?俺。 「そうか…、それが緋くんの下心か…とんでもねぇな、上級者だな」 「ええ?」 ちょっと待って。 さっきからなんか、どこか噛み合ってないんだけど。 「いいよ、分かった。それが緋くんの願いなら、頑張ってみる……俺に出来るかな」 「碧君」 「あの、緋くんの期待に添えるかは分かんねえけど、努力はするから。やり方、やっぱり調べたほうがいいな」 「じゃなくて、貴方なにか勘違いしてない?」 「え?」 黒い瞳が、キョトンと丸くなる。 「俺の下心は…、たぶん碧君の考えてるほど過激じゃないと思うよ」 「…え?」 碧君でも。 そんな面白い顔、するんだ。 「俺…貴方とキスがしたいな、て思ってて」 おかげで、最初の頃よりはすんなりと願望を口に出来た。 「…あっ、え、そうなの、キス?」 ハンパなく照れて、顔面真っ赤で。 この世のものとは思えないほど可愛い照れかた。 「そ、そうか」 貴方、間違いなく。 もっとその先を想像してたでしょう。 でも、おかげでなんだか、今後もしそういうシーンになったとしても。 少しだけ、俺有利にコトが運べそうな気がしてきたよ。 期待してるのは貴方もだ、て。分かったからね。 「なんだ…早とちりしちゃった」 嬉しい勘違い。 「碧君」 「へい」 人って動揺すると変な声が出るんだな、やっぱり。 「キス、していい?」 じゃあここからは、俺のやり方でやらせて貰おうかな、なんて。 若干、生意気にも余裕がでてきた。
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