初めて物語

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「……、うん」 キスしていい?て俺の要望に、碧君は小さく頷いて。 ちょっと居心地の良くないような、落ち着かないような瞳をした。 彼の体温の、直に伝わる場所まで身体ごと近付いて。頬にそっと手のひらを添える。 「…前にしたのにな。なんか、すげぇドキドキする」 言って、少し瞳を伏せる。 「前のは、貴方…あれ不意打ちでしょ」 「不意打ち?」 伏せていた瞳は再び俺を見て。 淡い照明に、光が散りばめられたみたいに潤んでる。 「不意打ちじゃないよ。ちゃんと、教えて、て言ったよ」 静かな部屋のなかで、碧君は話し続ける。 「そのあと緋くん倒れちゃって焦ったけど、でも…」 「碧君」 触れてる彼の頬が熱い。 瞳が、その熱に浮かされてるように潤んで輝いてて。 その瞳を見つめながら、少しずつ彼に近づいていく。 「緋くん、なんか、俺…」 彼の瞳が瞬く。 艶やかな唇は、少し震えていて。 「あの…、俺…」 「大丈夫、黙って」 目を閉じて、碧君。 ちゃんと心で重なるように。 「…、…」 少し震えてる彼のそこは、とても柔らかくて。 重ねた俺の唇を、優しく受け止めた。 ほんの数秒だったかも。 それとも、もっと長い時間重ねてたのか。 ゆっくりと離れて、彼を見た。 碧君は瞳を閉じていて。 「緋…くん」 瞼を開けると同時に、呟いた。 「…ん?」 開けた瞳は俺じゃなく、仰向いて、上を向いていて。 「…もう一度、して」 意外な言葉を口にした。 ……もちろん、俺は歓迎だけど。 仰向いてる碧君へ、こちらを向かせようと手を伸ばした。 けど。 やっぱり思い直して、体を起こすと、伸ばしていた腕を碧君の顔の両側につけて。 彼を上から見下ろした。 見上げてる碧君の瞳。 何も言わずに、ただ俺を見つめて。 再び唇を近付けて、ゆっくりと瞳を閉じていく碧君と、キスをした。 三度目に触れた彼の唇はもう震えていなくて。 ほんの少し。 薄く、唇を開いた。 くわえるように、俺の唇をなぞる。 理性が吹っ飛びそうに、全身を何かが貫いて。 彼の両側について支えていた腕をベッドへと預けて、もっと碧君に近づいて。 何度も、追いかけた。 碧君の唇を。
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