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夢中に彼の感触を追い求めながら、どんどん胸が苦しくなっていく。
俺の体の下で。
息遣いがまだ上手くいってない二人の不慣れなキスが、碧君の漏れ聞こえる吐息を少しずつ荒くさせていって。
「、…ふ…」
時折出来る隙間に甘い声が零れた。
俺の動きに合わせようと、碧君が少し首をもたげる。
今、はっきりと、自覚した。
俺はこの人を愛してる。
男も女も、世の理なんて関係ない。
この狂おしいほどの心を占めてる感情に枠を作るのなら、それは愛情だ。
それ以外に、俺は言葉を知らない。
「碧君」
「、……な、に?」
キスを続けながら。
彼から離れることが出来なくて。少しずつ話していく。
「好きだ」
愛してる、て。
まだ、言う勇気は無くて。
そこまで一方的な愛情は押し付けられないから。
精一杯の、言葉で。
「…好きだ」
触れてる唇が、追う度、追われる度、馴染んでいく。
「…緋…、…」
彼は何か話そうとするけれど。
それよりも先に塞がれて、塞いで。
まだ、あの告白の時からは、一度も好きだとかそんな言葉は言われてない。
だけど彼はそういう事は口にするのではなくて、態度や、仕草や表情とか。それ以外の方法で伝えようとするから。
俺の名を呼んで。
想いはその唇で伝えてくれれば、それでいい。
「碧君、もう一度…」
「ん、…ん…?」
「もう一度、呼んで」
今、キスの主導権は俺が握ってるから。
彼は自由にならない隙間で応えるしかない。
「な、に……?」
名前。呼んでよ、碧君。
「俺を、もっと呼んで」
求めて。
好き、とか。愛してる、とか。その代わりに。
「…、…緋…くん」
「うん」
「…緋…く…」
「もっと」
「う、…ふ…、緋…」
「……」
キスの合間に、碧君に名を何度も呼ばれて。
気が付いたら、碧君の手は俺の背中を抱いていた。
少しだけ、遠慮してたんだ。
からだを重ねることに。
碧君の優しい腕が、俺を迎え入れてくれたようで。苦しかった胸に、更に苦しさが増して。思わず泣いてしまいそうになる。
強く。
碧君の背に腕を廻して、彼をきつく、力を込めて抱き締めた。
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