ゆるやかな回転

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そうしないと、東京に出た意味が、無くなって仕舞うのだ。 彼女は、もう二度と、蛆虫と呼ばれ無い為に、もがいた。 バー「ジェイジェイナム」に入ったのは其の頃だった。 或いは、先に「ジェイジェイナム」に行っていれば、彼らと出会う事は無かったのかも知れない。 だが、歴史にもしは無い。 あるのは、酷い過去だけである。 煉瓦のタイルの貼られた、小綺麗なワンルームマンションに、詩織は入った。 自分の住んで居る所でも無いのに、もう、勝手も知って居る。 暗記したルームナンバーを押して正面玄関を入る。 3階へは、エレベーターを使うより、階段を使った方が早い。 急が無いと、彼らの機嫌を損ねて仕舞う。 息を切らして彼女は、彼らの待つ、301号室の呼び鈴を鳴らす。 返事は無い。 鍵が開いて居るのは知って居る。 其れでも自分が来た事を先に知らせるのが、礼儀だと思った。 ドアを開ける。 凄まじい煙草と、香水の匂いにむせそうになる。
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