ゆるやかな回転

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古ぼけた安アパートに、中山祐介は寝に帰った。 六畳一間の部屋には、木製の箪笥と仏壇があって、台所の前に布団が敷いてある狭さだった。 冷蔵庫からお茶の入ったペットボトルを取った彼は、眼鏡を外し口を付ける。 ひとしきりお茶を飲むと、ペットボトルを枕元に置いて、布団に転がる。 今年62になる彼には、横になるのも体に応えた。 仏壇には、30半ば程の女性の遺影が飾ってある。 写真は是だけでは無い。 仏壇の隣にある、箪笥の上にも、所狭しと写真立てが、埃を被って置いてあった。 遺影と同じ、女性の写真。 或いは、小さな男の子の写っている写真。 其の男の子は、写真を追う毎に、成長して居た。 が、男の子の成長は丁度17、8で止まって居る。 そして、女性の写真、男の子の写真、若しくは2人の写真はあったが、彼の写って居る写真は、一つも無かった。 2時間程寝た彼は、起き上がると眼鏡を掛ける。
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