ゆるやかな回転

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18の時から60歳になる迄、とあるメーカーで営業を生業として居た彼は、30分だろうと10分だろうと、決めた時間に起きる事が出来た。 42年掛けて、手に入れたのは、其れだけだった。 彼は、上着を身に纏い、顔も洗わず家を後にした。 下北沢から新宿で山手に乗り換え、更に上野で乗り継いだ先に、東京拘置所はあった。 かなり古くからある拘置所で、門前から煉瓦造りの、今は使って居ない古い建屋も見える。 彼は、約束の時間の2時間前から、其処に立って居た。 前には、棒を杖代わりにした、警官が、さっきからずっと人形の様に立って居る。 彼は、警察が嫌いだ。 見て居て、腸が、煮えくりかえる程、嫌いだった。 其れは、彼の家族間での、問題だったのだ。 赤の他人である、彼らに、罪だ悪だと言われる筋合いは、全く無かった。 ただ、妻が息子に殺された時分、彼は少し仕事が忙しく、10年ばかり、家族と会話が出来て無かった、其れだけなのだ。
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