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思い出と云う物は、どんなに絞り出してみても、断片的にしか浮かんでこない。
そして、其の苦心して浮かんだ思い出、楽しい物であろうと辛い物であろうと、実際には、全て現実に起きて居なかった事なのである。
昨日の思い出さえ、事実かどうかは怪しい物だ。
思い出す其の刹那、幸せな気分なら、其の思い出は、愉快で素敵な物に変わる。
又、逆に、悲しい気分なら、辛くおぞましい物に変わる。
其れなのに、人は、他人の過去にこだわり、其の中身の無い話を、なんとか聞き出そうと、時に躍起に迄なる。
人は、未来を知り得ない様に、又、過去も知り得ないのに。
2004年、田代誠は、埼玉、岩槻市にある、精神医療センターに居た。
15歳になる彼は、其処で既に四季を一度終えて居て、其の後、更に7年を過ごす事となる。
入院した理由に関しては、様々な事情が重なり合って居る上、特筆する事でも無い。
毎日、灰色の空を見て居た。
空が、灰色で無い日は、廊下で歩く練習をした。
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