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足が、悪い訳では無い。
彼は、非常口の緑のランプがぼんやり光る廊下を、1日かけてゆっくり、ゆっくり、前に進むのだ。
なるべくそおっと震える片足を前に出し、しっかりと地を踏みしめて又片方の足を浮かせる。
視線は先の、奥手の窓から差し込む陽の光に向けて。
傍らを、せわしなく看護士が駆け抜けても、ただひたすら、一心不乱に前を見つめ、真っ直ぐ、真っ直ぐ、歩いた。
まだ若い彼は、そうする事が、此処を出た後、必ず役に立つと、信じて居たのだ。
彼は、退院する迄の7年を、そうやって真っ直ぐ歩く練習に、費やした。
そして7年が過ぎた。
彼は、二十二歳になっていた。
迎えに来た両親に連れられ、彼は、彼の家と呼ばれる場所に着いた。
彼は、入院する前、彼が其処に住んで居た時の、証を見つけようと躍起になった。
小学生の時、壁に付けた傷は、壁紙が張り替えられて居る為、見つから無かった。
彼の部屋は、まだ幼かった弟の部屋になって居て、もう彼の所有物は何一つとして残っては居なかった。
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