ゆるやかな回転

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彼は、其の勝手の分から無い家で、非常に窮屈な想いをして過ごした。 其れは、彼の両親も同様だった。 ある日、ダイニングに彼を呼んだ2人は、テーブルの上にポンと惜しみ無く300万円を置いた。 手切れ金だった。 彼は病院から持って来た衣類を、其のまま小さなバックに詰めて、家を出た。 退院してから家を出る迄、結局、一度も「退院おめでとう」と云う言葉は聞け無かった。 小雨が、彼の視界を遮ったが、7年間、練習を怠ら無かった彼は、もう真っ直ぐ歩く事に躊躇しなかった。 家を出た彼は、東京に出た。 下北沢の駅を離れた、商店街に、潰れたばかりのバーのテナントを見つけた。 店内は、カウンターにテーブル席が3つ付いた、小さく粗末な物だったが、彼は、充分満足した。 直ぐにアルバイトを募集した。 彼には、会計事務の仕事は、到底出来なかったからだ。 一番始めに来た、彼より2つ年下の女性を雇う事にした。 帳簿の記入をして良い、と言ってくれたからだ。
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