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「まあまあ、ウチにだって、ちゃんとこう云う高価なお酒も在るんですよ。
今日は特別に、皆さんに差し上げましょう」
奥で飲んで居た、中山の溜め息も、洗い物する手を止めて、彼の名を呼ぶ詩織の声も、マスターの大盤振る舞いに歓喜する、客の声に掻き消され、誠には届か無かった。
まあ届いたとしても、もうどうにも成ら無いのだが。
大騒ぎの後の店内に、詩織の電卓を弾く音が響く。
後ろで誠が、頭を抱え心配そうに眺めて居る。
カウンターでは、もうすっかり氷の溶けて、温くなったウイスキーに口を付ける中山が居る。
何時もの、バー「ジェイジェイナム」の、閉店後の風景である。
帳簿に数字を書き込み、詩織が後ろに居る誠を振り返る。
怒った顔で誠を睨むが、うなだれている彼を見て、深く溜め息をつく。
「マスター。
簡単な計算です。
仕入れ8万円のバーボンの元を取るのに、一杯利益3百円のビールを何杯売れば良いですか」
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