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弁当箱にはキレイに盛り付けられた、沢山のおかず。
「すごい…」
紗英は思わず見とれてしまう。
「これ、何?」
由宇が弁当箱の一角を指さす。
「さすが由宇。目敏いね。それはラタトゥーユ。野菜のトマト煮込み。冷めても美味しいよ。」
箸を取り出して味見をする由宇。
「作り方、教えて」
由宇の言葉に、牧が笑顔で頷いた。
午後の授業が終わると、紗英は真っ先に保健室に向かった。
「牧先生、今日はありがとうございました!先生に声を掛けてもらわなかったら、私、今頃空腹で倒れていたと思います。本当に助かりました!」
明るく、屈託のない笑顔で、頭を下げる紗英を見て、牧が微笑んだ。
「どうだった?初担任は?」
「どうでしょう…。とにかく夢中で、あまり実感ないです。でも、みんなとっても素直でいい子たちで…。」
紗英は嬉しそうに目を細める。
「いい子ね…。ま、そういう事にしておきましょうか…。」
意味深な言葉を呟く牧だが、紗英には届いてなかった。
「櫻木くん…いつもここでお昼を食べているんですか?」
「ん…?そうね。お昼食べる…って言うか、お料理を教えてる…って感じかな。」
「先生にはすごく心からを開いているみたいで…。」
「そう?お料理の話ししかしないわよ?」
「でも、クラスでは浮いているみたいで…。仲のいい友達もいないみたいだし。」
「確かに、ちょっと変わってるかもね、あいつ…。」
何気に外を見ると、下校する生徒たちに交じって、由宇が1人で校舎を後にする姿が見えた。
「三室先生、由宇とうまく接したいなら、あまり干渉せずに、ある程度距離をおいてあげる事ね。…特に、家族の事には極力触れない方が、いいと思う。」
「はぁ……」
よくわからない、という紗英の表情。
「ま、これからも頑張って!」
紗英の肩をポンと叩き、牧が優しく微笑んだ。
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