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沢山の買い物袋を抱えながら、由宇がマンションのカードキーを取り出す。
手元が見えなくて、うまく差し込めずにいると、後ろから「手伝おうか?」と声がした。聞き覚えのある声に、振り向く由宇。
「小田さん…。」
そこには人の良さそうな優しい顔の、小太りな中年の男が立っていた。すいません、と買い物袋を一つ渡し、カードキーを差し込んでドアを開ける由宇。
「どうぞ」
小田という男を部屋に招き入れると、由宇は玄関のドアを閉めた。
「もしかして、待たせちゃいました?」
小田から買い物袋を受け取り、キッチンに入ると、由宇が話かける。
「ついさっき来た所だよ。成瀬くん、電話も出ないしさ、もしかしてアトリエに入ってるのかなぁ…って思って。帰ろうかと思ったら、由宇くんがエレベーターから降りて来るのが見えたんだ。」
リビングのソファーに腰を下ろし、汗をふく小田。
「そうなんだ……。亜義、今朝からアトリエに入ってるんです。描きたいものが浮かんだみたいで。」
由宇はケトルを火にかけながら、嬉しそうに話した。
「そりゃ楽しみだ!…実は今日は成瀬くにいい話を持ってきたんだ。」
「いい話…?」
「先に弟の由宇くんに話しちゃおうかな…。」
ニコニコと目元を下げる、小田を見て、由宇は慌ててキッチンから飛び出してきた。
「え?何ですか!?…もしかして…。」
「そう!そのもしかしてだよ!成瀬くんの個展が決まったんだ!!」
我慢出来ずに大きな声を出す小田。
「やった!!!」
由宇も頬を蒸気させながら、満面の笑顔でガッツポーズをつくる。
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