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私は受付まで来て、ようやくそれに気付いた。
そう、受付が居ないのだ。
こんな立派な会社なのに受付が居ないなんておかしい。
……いや、まだ何か見落としているような……?
「面接を、受けに来たのですか?」
突然横から聞こえた人の声に、私の心臓は跳ね上がった。
「うわっ! やっ、あの……」
思わず叫んでしまい、慌てて口を閉じた。
一気に顔が熱くなった。
「ああ、すみません。驚かせてしまって……」
その人は私の慌てた様子を見ながら、淡々と言った。
その人は女性だった。
私より……少し年上だろうか。 灰色のスーツにスカート、髪は一本に束ねている。
かなりの薄化粧なのだが顔は青白く、なんとなく具合が悪そうに見える。
「あっ……いいえ、すみません。こちらこそいきなり叫んでしまって……」
見た限り、ここの会社の人のようなのだけれど……これはお粗末すぎないか?
何と言うか……大企業には不釣り合いすぎる容姿をしている。
一瞬、会社を間違えてしまったのではないかとも考えたのだが、先程彼女は「面接を受けに来たのですか?」と聞いていたことを考えると、どうやら間違いではなさそうだ。
「面接を受けますか?」
彼女は、弱々しい声で言った。
「はい。受けます」
私ははっきりとそう言った後、いささか疑問に思った。
『受けますか?』という質問の仕方は何か違和感がある。
「では、会場までご案内いたします」
「……ありがとうございます」
彼女は薄ら笑みを浮かべると、エントランスの横の廊下へと歩き出した。
私は誠実にその後をついて行った。
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