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信号が点滅している。
ここは止まっておこう。
周りの人々は駆け足で黒と白のストライプを渡っている。
だが、私は構わず足を止める。他人に合わせる必要なんてないからだ。
そして全ての人が渡りきらないうちに、信号は赤に変わった。
ふと、腕時計を見た。
時刻は9時30分。
面接開始時間は10時。
時間は、問題無い。
今から受ける会社は、世間一般的な中小企業よりもずっと上、いわゆる大企業に属するところだ。
今の仕事でも、十分食べていけるし、生活に支障があるわけでは無い。
仕事自体は充実していて、不満を持ったことも無い。
辞める必要なんてこれっぽっちもないけれど……、それはあくまで一般論だ。
少なくとも私には必要なことだ。
腕時計は、9時31分を指した。
……そういえば、この時計…お姉ちゃんに、就職祝いで買って貰ったんだったな……。
洒落っ気が無いシンプルなデザインの、ゴールドの腕時計。
要らないって言ったのに、無理矢理買った。
あの時のお姉ちゃんの笑顔が頭から離れない。
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