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「魔王って、私が?」
「ああ、あんたも既に千年単位で生きているだろ?」
魔術師は、笑った。
「私は…身分が低すぎ…」
「千年生きて来て、身分なんかもうどうでもいいだろ」
魔術師は、沈黙した。
「だったら、ディムナの方が」
「それ、竜騎士の名前か」
「奴なら、あの方の娘と…」
「でも、今は死んでるし」
また、魔術師は沈黙した。
「あんたの方がしぶといし、人間味がある。
それに、女王を姫に戻し、かつ、魔族の罪無き人々に新しい肉体を与えるには、譲位は必須だろ?
だから、竜騎士にこだわったんじゃないか?」
「…私が王か…」
魔術師は、胡坐をかいたまま自分の手を見ている。
「私は、この世界の人々を多数殺したぞ」
「あんたがたの世界に引っ込んでくれれば」
魔術師は、その場に立ち、儀式剣の刃に残る竜族の娘の血を、丁寧に自分の服で拭った。
「女神の末裔。呪われた種族を祝福する気があるなら、儀式の証人になれ」
床に剣を突き立て、魔術師は詠唱を始めた。
アリスンは、やっと対話が実った感慨と共に、儀式を見守った。
儀式が終わると、魔術師は、この世界から消えた。
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