一章

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こうして、 私と柏村は不本意ながら「恋人同士」になった。 …それにより、何かが変わるとは思えないけれど。 そうだよ 普段通り、挨拶だけしてりゃいい。 窓の外を見れば若干雨は弱まっていて、これを機に帰る、と告げれば柏村も本を閉じてしまいはじめた。 「え、二人とも帰っちゃうの?」 「雨弱まったし。」 「ふーん、じゃあね」 手をひらひらさせる恵津子ちゃんに手を振り返し、私は下駄箱へ向かった。 「……。」 雨が弱まった、とはいうものの、まだまだ小降りというのにはふさわしくない。 ずぶ濡れ覚悟で一歩を踏み出した私、 …の肩を掴んで引き止めた柏村。 「…何?」 「濡れるよ」 「傘ないんだもの。しょうがないよ」 「持ってこなかったの?」 「うん、」 「天気予報見なかったの?」 「占いくらい、あてにならないもん」 柏村から視線を外し、雨が降り注ぐ外を眺めると柏村がくすりと笑う気配がした。 「送ってくよ」 「え?」 「家、近いし」 そういって、傘をさした柏村。 「…って、傘持ってたの?」 「梅雨入ったら持ち歩くの常識だよ。持ち歩かない方がめずらしい」 …それ言ったらその珍しい人達が我がクラスには12人いたわけですが。…いや、違うか。柏村を引いて11人か。
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