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「姫さま、頼りないですが、奈津がついております」
小さい身を奮い立たせて、奈津はそのように言う。佐久は微笑ましく思った。
「そうね、奈津がいるもの。私は、なんにも心配しなくて大丈夫ね」
佐久の笑い声はくすくすと室内に響く。その笑い声を遮るかのように、一つの声が飛び込んで来た。
「大王さまが、お呼びでございます。今すぐ参上なさい、とのことです」
そこにいたのは、先程も佐久を案内した年嵩の采女であった。その女性も年は取っているが、しわ一つない肌を保っている。この肌のためにどれ程の時間を費やしているのか、少女には想像もつかない。
佐久はその言葉を聞き、胸が高まるのを感じる。なんと急なことだろう、と思った。
こんなに早く大王その人物に会えるとは考えていなかったのだ。
しかし、これは良い機会なのだとも思う。姉のことを聞くことが出来るのだ。
「ただいま参ります」
そこから先は迷路のようであったと、佐久には思えた。
いくつもの曲がり角を曲がり、回廊を通り過ぎ、似たような庭を見かける。華やかではあるものの、どこまでも同じようなものにしか思えない佐久は、これならば移り変わる自然の方がどんなに美しいだろうかと考えていた。
こんなちっぽけな自然を静々と眺めるより、父母の住む山々で駆け回れたらどんなにいいだろう。
都人とやらの考えることは、佐久にはさっぱり分からない。
宮も奥まって来て、人通りもどんどん少なくなってきたところ、前を歩く采女が足を止める。
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