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大山津の一族は所詮地方の一豪族でしかなかった。
その領地は広くとも人の住めるような土地は少なく、ほとんどが険しい山で占められていた。
しかし、冬でも暖かい土地柄であり、大規模な洪水は少なく、緑は多く、作物もよく成る。そのおかげか、人々は穏やかな気質の者が多いのであった。
それもこれも、大山津の一族が山の神の祭祀を良く執り行ってくれているからだと、人々は口々に言う。
山の神は恐ろしいものだと、山の麓に住む者たちは知っていた。
気性は荒く、何かあるとすぐに地滑りを起こし、火の雨を降らす。記録にある中ではどれも、大勢の犠牲者を出していた。そのはずなのに、大山津の者がこの地を治めるようになってからは、そんな災害とは無縁であると言ってよかった。
領民は皆、あの一族は神の血を引いているに違いないと噂した。山の神に特別に思われているのだと。そうでもなければ、年中白い冠をかぶるあの山がこんなにも平和であるはずがないのだ。
そんな大山津の本家には、不思議な力を持つ姉と、雪解け水のように清廉で美しい姉妹がいると、民は、特に若衆は言う。
姉君の力は、不治の病でも治せるのだそうだ。また、輝くような姫君たちの笑顔を見て、一瞬で心を奪われる者も多いのだとか。
そんな気立ての良く、可愛らしい姫君たちは、領民にとっての自慢であった。跡継ぎとなられる若様も居られるこの地はいつまでも、安泰かと思われた。
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