はじまり

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 佐久は、一年前のあの日からまるで半身を失ってしまったかのような、空虚を感じていた。  最も身近であった存在が、声を枯らすまで叫んでも届かない場所にいる。佐久にとって、今までありえなかったことだ。姉はいつだって佐久の隣にいた。  でも、例え都に行くのではなくとも、いつか起こる話だったのだと自分を慰める。  一人の少女にはどうしようもない出来事であった。  佐久はただ阿沙の幸せだけを祈る。祈っていたのだ。  その阿沙は、もう帰って来ることはないのだという。二度とこの地を踏みしめ、笹のそよぐ音を聞き、青い空を仰ぐことはないのだという。  佐久は、別れの日に寂しそうに笑っていた阿佐が、もうこの世のどこにもいないなんて信じられなかった。  自分の半身は、この空の下、どこかにいるのだと、微笑んでいるのだと思っていた。  涙は出なかった。 「佐久……」  後ろから、声がする。疲れを滲ませた母の声だった。  佐久は振り返らない。
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