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「佐久。阿沙は、いなくなっても猶この故郷に帰ってくることを許されなかった。私たちは、二人の娘を差し出すために、この地を治めているわけではないのに……」
いつもは気丈な母が、めったには吐かない弱音を吐く。母様はもう既に諦めているのだと、佐久は思った。
「信じない。姉さまがもうどこにもいないなんて……、そんな風には思えないの。この地は変わらずここにあって、私もあのときからずっと姉さまを待っているのに、姉さまだけがいない、なんて……。そんなことあるはずがない」
母が悲しげに娘を見つめる。
「阿沙は……」
佐久が振り返って、母を見る。
母は年をとった。その代わりに娘は成長し、若さ故の無鉄砲さを備えている。
いつの間にか音が止んでいた。笹のそよぐ音も、水の流れる音も、全てが静まっていた。
「私、都に行きます。都で、姉さまを探します」
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