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佐久は、ようやくといった調子で、一息ついた。数十日もかけて、やっとのことで都入りを果たしたのである。
しかも、周りにいるのは大王の使いだという、見知らぬ男ばかりだと状況であったのだ。常に気を張り続けなければいけなかったのである。
しかし、都に着いたからとて、ゆっくりと過ごせるわけではない。第一佐久は姉を探しに来たのだ。休んでいる場合でもない。
昨晩は都に泊まった。更に、今日の朝早く出仕し、あれやこれやと引っ張りまわされ、自分の部屋を案内されたのが夕食間近のこの時間であった。
自分の部屋と言えど、落ち着けるというわけではない。むしろ、その正反対に近かった。
都の華やかさは、田舎のそれとはまるで違う。道沿いの露店の多さ、騒がしさ。人の視線の煩わしさ。
山間の静かさに慣れた身としては、苦痛でしかなかった。普段と違う空気に肩身の狭さを感じてしまうのだ。
そして、更に、今は都の中心地、大王もこの中のどこかにいるという宮の中にいるのである。
案内されたこの場所は、田舎娘にとって見慣れないどころではない、何に使うのかすら分からない物で溢れていた。
自らの部屋に居ても、それは同じである。更に、身の回りの道具の値段を考えることも憚られた。
考えてしまった瞬間、汚したり壊したりするのが怖くて、何も出来なくなるだろうと佐久は考えたのである。
そして、それは、あながち間違いでもないと思われた。
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