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風が吠え、砂塵を巻き上げる。
枯れかけた草木がまばらに生えている荒野に、左右にどこまでも続くかと思われる、石で積み上げてできた壁が道を阻んでいた。
その壁に砂嵐が叩きつけられる中、小さな人影が壁に寄り添うように歩いていた。
頭からすっぽりと砂よけの布を纏い、しっかりと体に巻き付けて、一歩一歩確実に歩を進めている。
こんな場所を歩く酔狂な人間は、ほぼいない。いるとすれば、おこぼれにあやかろうとするハイエナや禿鷹くらいであろう。
こんな荒れ地のどこからここまで辿り着いたのかは想像がつかないが、人影は休むことなく歩き続けている。そのまま壁の途切れるところまで歩き続けるのかと思えば、突然立ち止まった。だが次の瞬間、するっとその姿が消えた。
そう、壁側に振り返ったところで、姿が跡形もなく消え失せてしまったのだ。壁には人の入る隙間があるわけでもなければ、石を動かした形跡があるわけでもない。
後に残ったのは、ここまできた足跡だけであり、それすらも砂に埋もれていく。
そして、何も残らない。
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