1 可能性

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 今にも崩れ落ちそうな門をくぐり、その先に開けているのはくすんだ家の連なりだった。  本来ならば、まだ日が高い今の時間は、往来に人がごった返していてもおかしくないのだが、生き物の影一つ見えない大通りは、砂塵が我が物顔で独占している。  人の気配すら押し殺されているこの町は、死んだ町と言っても過言ではないだろう。  その門の入り口に、仁王立ちで町を見渡す人影が一つ。  白い布を頭から被り、砂を避けるように手で布を押さえているので、その顔は見えない。細身であまり身長は高くないが、かといって、吟遊詩人のように楽器を持って歩いているようには見えない。  というのは、背中に斜めからかけている、その人の身長よりも長い棒状の物が、とても楽器には見えないからだ。  では、この人物はこんな町に物騒な物を持って、一体何をしに来たのだろうか?  彼は暫く微動だにせず佇んでいたが、一歩踏み出そうとして――やめた。  目の前に唸りを上げて通り過ぎ、門に打ち立った物があったからである。  それは、ナイフだった。  少しも驚かず、冷静に周りを見渡すあたり、少なくともこの人に実戦経験があることが分かる。  だが、家々には変化はないし、影が動く気配もない。  ひとつため息を吐いて、彼は今度こそ躊躇いもせずに町の中に入っていった。今度はナイフの洗礼はなく、迷わず酒場に向かう。
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