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「お前さん、どっから来た」
薄汚れた扉をくぐると、薄暗い店内の奥に禿頭の男がいた。
カウンターの中にいると言うことは、この店の店主ということだろう。しかし、片手に持っているのは酒瓶だし、コップになみなみと入っているのは琥珀色の液体である。
「ここはずいぶん流行っていないんだな」
男の声を無視して、彼は独り言のように呟くと、被っていた布を肩に落とした。
声は紛れもなく青年の声なのだが、布から流れ落ちたのは純白の長い巻き毛だった。それだけならともかく、目が見えないのか、これまた白い布でぐるぐる巻きに目隠しをしている。顔は小さめで、鼻も口も整った形なので、男か女か見分けが付かない。
「余計なお世話だ。出す物なんてないから、とっとと帰れ」
奇妙な客に店主は機嫌悪く言い放つと、一口コップの液体を口に含ませる。かなり前から飲んでいるようで、その肉厚な顔は真っ赤だった。
「まぁそう言いなさんな」
彼は少し口の端を上げて、カウンターに近寄る。
「前に来たときはもっと活気のある町だったと思うけど、何があったんだい?」
「知らないのか」
彼が以前にもこの町に来たことがあることを聞いて、口が緩んだのだろう。店主は愚痴りたい気分になったらしい。
「この町がこうなったのは、この一年の間のことだ」
店主は吐き捨てるように唸った。
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