1 可能性

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「お前さん、どっから来た」  薄汚れた扉をくぐると、薄暗い店内の奥に禿頭の男がいた。 カウンターの中にいると言うことは、この店の店主ということだろう。しかし、片手に持っているのは酒瓶だし、コップになみなみと入っているのは琥珀色の液体である。 「ここはずいぶん流行っていないんだな」  男の声を無視して、彼は独り言のように呟くと、被っていた布を肩に落とした。  声は紛れもなく青年の声なのだが、布から流れ落ちたのは純白の長い巻き毛だった。それだけならともかく、目が見えないのか、これまた白い布でぐるぐる巻きに目隠しをしている。顔は小さめで、鼻も口も整った形なので、男か女か見分けが付かない。 「余計なお世話だ。出す物なんてないから、とっとと帰れ」  奇妙な客に店主は機嫌悪く言い放つと、一口コップの液体を口に含ませる。かなり前から飲んでいるようで、その肉厚な顔は真っ赤だった。 「まぁそう言いなさんな」  彼は少し口の端を上げて、カウンターに近寄る。 「前に来たときはもっと活気のある町だったと思うけど、何があったんだい?」 「知らないのか」  彼が以前にもこの町に来たことがあることを聞いて、口が緩んだのだろう。店主は愚痴りたい気分になったらしい。 「この町がこうなったのは、この一年の間のことだ」  店主は吐き捨てるように唸った。
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