1 可能性

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「この砂嵐は一年近く続いていてなぁ、もう食料がねぇんだよ」  彼は窓の外を見ながら、水は、と尋ねた。 「水は大丈夫なのか?」 「元から家の中に井戸があるからな」  それは便利なことだと思っていると、店主はまた酒を呷って、 「この町は緑も水も豊かだった……。だから、シシロと呼ばれているのさ」  シシロというのは、豊潤な、という意味がある。 「何でこんなことに?」 「【生命の木】の守護者が消えたからだ」 「いのちのき?」  聞き慣れない名前に青年が首を傾げると、店主は身を乗り出すようにようにして、説明を始めた。 「そうさ、この町の外れまで行けば、南の森に入る。森の中心に立っている巨木が【生命の木】だ。この木のおかげでシシロがあったんだからな」 「どういうことだ?」 「あの木があるから、今までこの町は酷い天災に襲われることなく、平和にやってこられたんだ。隣の国からの攻撃も、ここには及ばないしな」  他の被災地と比べたら、とんでもない話である。 「守護者はいなくなったら、また新しい守護者が現れるんじゃないのか?」 「今まで守護者の世代交代なんて、一度もなかったんだよ」 「守護者がいないと、何か不都合なことがあるのか?」  何気なくするっと出たこの言葉が、店主の逆鱗に触れたらしい。
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