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「この砂嵐は一年近く続いていてなぁ、もう食料がねぇんだよ」
彼は窓の外を見ながら、水は、と尋ねた。
「水は大丈夫なのか?」
「元から家の中に井戸があるからな」
それは便利なことだと思っていると、店主はまた酒を呷って、
「この町は緑も水も豊かだった……。だから、シシロと呼ばれているのさ」
シシロというのは、豊潤な、という意味がある。
「何でこんなことに?」
「【生命の木】の守護者が消えたからだ」
「いのちのき?」
聞き慣れない名前に青年が首を傾げると、店主は身を乗り出すようにようにして、説明を始めた。
「そうさ、この町の外れまで行けば、南の森に入る。森の中心に立っている巨木が【生命の木】だ。この木のおかげでシシロがあったんだからな」
「どういうことだ?」
「あの木があるから、今までこの町は酷い天災に襲われることなく、平和にやってこられたんだ。隣の国からの攻撃も、ここには及ばないしな」
他の被災地と比べたら、とんでもない話である。
「守護者はいなくなったら、また新しい守護者が現れるんじゃないのか?」
「今まで守護者の世代交代なんて、一度もなかったんだよ」
「守護者がいないと、何か不都合なことがあるのか?」
何気なくするっと出たこの言葉が、店主の逆鱗に触れたらしい。
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