1 可能性

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 また嵐の中に放り出された青年は、当てもなく町をさ迷うように歩く。  路地裏に差し掛かった辺りで、青年は立ち止まった。どの家も厳重に閉め切られて、扉すら叩けない。 「そろそろ出てきてほしいんだけどなぁ……」  そう独り言を呟いたところで、耳元で風の音とは違う、鋭い音が後ろから通り過ぎていった。 「なぁ」  目の前の石の壁に、だすっとナイフが突き刺さった。  入り口で投げられたナイフと同じものである。 「さっき言ったことは本当か?」  今回もまた、やはり背後からだった。  ただし、今回は幾分年齢層が下がるかもしれない。 「そのためにこんな飛び道具を用意したのか?  ――あー」  意気揚々と彼は振り返り相手を見下ろして、ちょっと固まった。頬をぽりぽりと掻いてみる。 「うーん……――お嬢さん?」  そう、目の前に立つのは、青年の肩までの高さしか背丈がない、女の子だった。先ほどの男と同じように、フードを被り、マントを着ている。しかしどう見ても、とがった顎といい、大きな瞳といい、どこをとっても十三、四の女の子にしか見えない。  青年が戸惑っているのは、この点だった。  この激しい砂嵐の中、ナイフ一本目標に向かって投げるのは至難の技である。ナイフは軽くて投げやすいが、その軽さゆえに風に押し流される可能性が高いからだ。しかも今回はともかく、入り口のところでは相当遠いところから投げたに違いないのだ。  だからこそ、彼はナイフの投手が気になっていたし、会ってみたいと思っていた。  だが、まさかこんな女の子だとは思いもしない。
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