第一章

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最近よく、夢を見る。 夢の中でオレは、異形の化け物を退治する正義の味方のような存在で、人々からは現代のジャンヌダルクと崇められていた。 誤解が深まらない内に一応言っておくが、オレは『女』だ。 戸籍上だけの話しではなく、生物学的観点からしても女である。 なぜこんな一人称を使っているのかと言うと、それが一番似合うからだ。 主観的に見ても客観的に見ても、この一人称が一番合っている。 その証拠に、前に一人称を『私』にしたら、友人から思いっきり笑われた。 悔しいので、できるだけ女の子らしい服装をしてみるも、どうもTシャツにジーンズやジャージの方が似合ってしまうのだ。 和服やチャイナドレスは似合うと誉められたことがあったが、どちらも私服としては着られない。 さて、現実逃避のための自己再認識もそろそろ厳しくなってきたので、現実を見直そうと思う。 デジタル式の目覚まし時計を手に取り、時間を確認する。 AM 02:40 悪夢のせいで目覚めてしまったのだろう。だが不思議と寝直そうという気持ちになれない。理由は明白。深夜にしても早朝にしても、明るすぎる。 ケータイを開いて再び時間を確認する。 AM 08:00 「ははっ」 思わず笑ってしまったが笑っている場合ではない。 「遅刻だあぁぁっ!」 寝癖のひどい頭を掻きむしる。 そうしたところで何かが変わる訳では無いが、とにかく掻きむしる。 なんだか気になる夢を見たような気がするが、そんな事を気にしている余裕はなかった。 普段なら7時丁度にけたたましく鳴り響くベルの音が、今日に限って鳴らなかったのは電池が切れたためだろう。 「なんでよりにもよって平日に止まるんだよ~!」 誰に聞かせる訳でもなく、ただ単に不満は口にしないと気がすまない質なので、髪をとかしながら一人でぼやく。 チンッと、先にトースターに突っ込んでおいたパンが軽く跳び上がった。 寝癖を直し終え、パンを抜き取り、バターを薄く塗り、恐らく人生最速で4枚のパンを胃に詰め込む。 そしてセーラー服に着替え、靴を履き、自転車のカゴにカバンを叩きつけるように突っ込むと、スカートが翻るのも気にせず全力でペダルを踏みしめた。 普段は電車に乗って学校に向かうのだが、今の時間からだと、電車では間に合わない。 しかし自転車なら、全力で漕いで信号に一度も足止めされなければ、ギリギリ間に合うはずだ。 可能性は、0じゃない。
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