第一章

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「ま、間に合ったぁぁぁ……」 滑り込むように勢いよく登校し教室の時計を見ると、間一髪で遅刻を免れた。 始業のチャイムをBGMにふらふらと自分の席に向かい、ドサッと音が聞こえそうなほどの勢いで座る。 滝のような、とまではいかないまでも、そこそこの汗をかいたためシャワーを浴びたかった。しかしこの学校にはシャワーがないし、あったとしても着替えの準備がない。 仕方ないから制汗スプレーで我慢する。 こういうところが男らしいと言われるのだろうか? 「キョーコ?!大丈夫なんですか?!」 感慨に耽っていると、隣の席のマリアが心配そうな目でオレを見てきた。 「しいて言うならふくらはぎと太ももがピンチだ…… あ! 吊った! 吊った!」 あまりの痛さに涙を浮かべながら足をさする。 そんなオレを見て、マリアは安心したようなため息をついた。 「実は今日、七時五十分発の電車が横転したそうなんです…… キョーコがいつも乗って来る時間ですから、分かりますよね? ほとんどウチの生徒で3車両が埋まってる時間なんです。 入院しなきゃならない生徒がたくさんらしいので、しばらく学校はお休みになるって放送で……」 言われてみればクラスの半数以上が空席だ。 それに、席に着いている人は暗い表情を浮かべている。 オレが来なかったらマリアもあんな顔をしていたのだろうか。 そう考えるとぞっとしない。 朝は恨んだけど、これは後で感謝しなきゃだな…… 「なににですか?」 oh?エスパー? と聞きそうになったが、単にオレが考え事を口にしていただけだったみたいだ。 「目覚まし時計」 「Why? ……何でですか?」 「なぜか時間がズレまくってたんだよ。 そのおかげで遅刻しかけて電車に乗らなかったんだ」 ほんと、なんであんなに時間がズレてたんだろう。たぶん寝ぼけていじったんだろうけど。 「へぇ。こういう時はなんて言うんでしたっけ? きゅーしにしっしょうをえる?」 「それを言うなら『九死に一生を得る』な。あと、この場合は『怪我の巧妙』の方が正しいかな?」 「むぅ……日本語はむずかしいです」 オレからしたら英語の方がむずかしいです。
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