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「ま、間に合ったぁぁぁ……」
滑り込むように勢いよく登校し教室の時計を見ると、間一髪で遅刻を免れた。
始業のチャイムをBGMにふらふらと自分の席に向かい、ドサッと音が聞こえそうなほどの勢いで座る。
滝のような、とまではいかないまでも、そこそこの汗をかいたためシャワーを浴びたかった。しかしこの学校にはシャワーがないし、あったとしても着替えの準備がない。
仕方ないから制汗スプレーで我慢する。
こういうところが男らしいと言われるのだろうか?
「キョーコ?!大丈夫なんですか?!」
感慨に耽っていると、隣の席のマリアが心配そうな目でオレを見てきた。
「しいて言うならふくらはぎと太ももがピンチだ……
あ! 吊った! 吊った!」
あまりの痛さに涙を浮かべながら足をさする。
そんなオレを見て、マリアは安心したようなため息をついた。
「実は今日、七時五十分発の電車が横転したそうなんです……
キョーコがいつも乗って来る時間ですから、分かりますよね?
ほとんどウチの生徒で3車両が埋まってる時間なんです。
入院しなきゃならない生徒がたくさんらしいので、しばらく学校はお休みになるって放送で……」
言われてみればクラスの半数以上が空席だ。
それに、席に着いている人は暗い表情を浮かべている。
オレが来なかったらマリアもあんな顔をしていたのだろうか。
そう考えるとぞっとしない。
朝は恨んだけど、これは後で感謝しなきゃだな……
「なににですか?」
oh?エスパー?
と聞きそうになったが、単にオレが考え事を口にしていただけだったみたいだ。
「目覚まし時計」
「Why? ……何でですか?」
「なぜか時間がズレまくってたんだよ。
そのおかげで遅刻しかけて電車に乗らなかったんだ」
ほんと、なんであんなに時間がズレてたんだろう。たぶん寝ぼけていじったんだろうけど。
「へぇ。こういう時はなんて言うんでしたっけ?
きゅーしにしっしょうをえる?」
「それを言うなら『九死に一生を得る』な。あと、この場合は『怪我の巧妙』の方が正しいかな?」
「むぅ……日本語はむずかしいです」
オレからしたら英語の方がむずかしいです。
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