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ドォ-ン!
パパァーン!
『リョウマ起きらんね、日本晴れたい、良かった良かった』
朝方7時、予定通り運動会が開催される合図の花火に、祖母の千代が竜馬を起こす。
『うん』
布団の中で起きていた竜馬は、その花火の合図を、誰よりも待ち兼ねていた。
六年五組、梅津竜馬。
竜馬は運動会のプログラムの最後を飾るクラス対抗リレーの選手に選抜されていた。
男子三人、女子二人の五人で一チームの六クラスによる対抗戦だった。
このリレーの選手は運動会の花形だった。
クラスや他の学年、父兄や先生の注目と期待を浴びる。
足が速いという優越感の太鼓判を貼られるのだ。
そして、花形中の花形は何といってもアンカーだった。
アンカー以外の四人はトラックを半周するのだが、アンカーだけは一周という素晴らしいルールがあった。
そして毎年、最後の直線で数々のドラマが生まれる。
そんな先輩達のドラマを見てきた竜馬は、毎日その最後の直線のドラマを想像しては、走り込みや四走目を走る智美との、バトンの受け取りの練習に余念がなかった。
『夕べ母ちゃんに電話ばしたけん』
『うん』
『ウンっと、力つけんばいけん』
祖母の千代が白飯と生玉子を卓袱台に置いた。
竜馬は玉子掛け飯を作り、勢い良くがっつく。
千代の言葉に夕べの夜中の会話が頭の中を過ぎる。
『なんば言おっとね、リョウマの晴れ姿ばい、しっかり見に来んね!』
なかなか寝付けないでいた竜馬は、千代の会話を聞いていた。
千代の口調から竜馬の母と話していると察していた。
千代はあからさまに怒っていた。
その会話から母は運動会へは来ないつもりだと、竜馬は諦めていた。
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